誰かを好きになる度に 栞のことを思い出す 栞に語りかける 智美に話して以来 栞のことを人に話したことはない 自分の恋愛を人にはなすとき 自分の過去を話すとき 栞のことは話さない でも、多分あそこにいたのが本当の自分で それを知っているのは栞だけ 幻想なのだろうか 今会ったら幻滅するのだろうか 過去をさまよいながら生きている 栞のことを思い出す時 僕は独りになる 独りを感じる時 栞を思い出す 一人じゃないって思える 矛盾してる 独りを感じる時 栞に話しかける 僕は今どこを歩いているのだろうか 僕は正しい方向へ向かっているのだろうか 僕は今、自分に正直に生きているのだろうか 栞 今でもたまに夢に出てくる 目が覚めた時 このまま目が覚めなければいいのにって思う 夢の中ではいつも笑っている
本大好きサラリーマンの小説㉛~虜~
誕生日以来、有沙のことが気になった 有沙のそれは、多分、「好き」という感情ではなかった 有沙の目に僕はどう映っていたのだろう 東京から来た独身男性 独りぼっちで可哀そう そういった同情の感じが強かったのではないか 有沙には彼氏もいた 僕はそれを知っていた 手を出すほど勇気も度胸もない 僕28歳、有沙20歳 歳も離れている 店長とアルバイト 有沙は人懐っこかった 有沙は時々、核心をつく 「店長は冷たい」 そんな言葉も新鮮だった そう思っても、それを直接言ってくれる人は中々いない 部下であれば尚更 僕のそんな「冷たい心」を温めようとしてくれたんじゃないか 人は本来優しい生き物のはずだ 僕には優しさがかけていた 人の感情を逆なでにするようなことを平気で言った 有沙はそんな僕を案じてくれていたのだ 有沙の虜になるのにそう時間はかからなかった