僕は人と打ち解けるのが下手だった 人見知りではないのだが、時間が経てば仲良くなれるタイプでもなかった 合わない人とは、ずっと合わない 打ち解けられる人は片手で数えられるくらいだった 表向きは楽しそうに話していても、本心を見せることができなかった いつも客観的に自分をみていた 「笑っていればいい」 処世術 あるとき気づいた 笑っていれば、うまくいく そんな生活に疲れていた そんな自分が嫌だった そう思うことで、より深く自分の殻に閉じこもっていった 「栞ならわかってくれるはず」 その想いが栞には重かったのかもしれない 心が遠くなっていった
本大好きサラリーマンの小説⑬~胸騒ぎ~
「佐山 浩二です。これからよろしくお願いします」 コンビニでアルバイトをしていた僕に後輩ができた。 人付き合いは苦手な僕だったが、店長の「新人教育よろしくな」の一言で 僕が佐山の教育をすることになった。 歳も一つ下で、素直に言うことを聞いてくれたので、やりやすかった。 自分にも後輩ができた嬉しさもあり、一生懸命教えた。 浩二は物覚えもよく、気さくな奴で、僕らはすぐに打ち解けた。 「聡志さんて、彼女いるんですか?」 「いるよ」 「写真とか持ってないんですか?見せてくださいよ」 僕は躊躇いながらも、栞と旅行に行ったときの写真を見せてあげた。 麦わら帽子をかぶって、笑顔で振り返る栞の写真 お気に入りの写真だ 「めっちゃかわいくないですか?俺タイプっす」 「だろ?手出すなよ」 「出すわけないじゃないですか。やめてくださいよ」 妙な胸騒ぎがした。。。
本大好きサラリーマンの小説⑫~すれ違う気持ち~
聡志と栞は何度も抱き合った それまでの孤独を埋めるように 聡志は何度も栞を求めた 「セックスってこんなに気持ちいいんだ」 いつの間にか、 聡志は快楽だけを求めるようになってしまった 口に含まれる行為も 栞の中も、なにもかも気持ちよかった 好きだからセックスをしているのか セックスがしたいから好きなのか 聡志は分からなくなっていた そんな聡志に 栞はしだいに愛想を尽かしていった
本大好きサラリーマンの小説⑪~未熟な二人~
栞は時々、なんの前触れもなく機嫌が悪くなった。 僕は、栞の感情の揺れに狼狽えることしかできなかった。 その頃の僕に、女心をわかる術もなくー今もだがー ただ、見守るしかなかった。 今の言葉でいう「つんでれ」だったのか。。。 天邪鬼だったのか。。。 もう少し、僕が分かって上げられたら、あんな終わり方をしなかったのかもしれない。 僕は、不器用だった それは今も変わらない もしもあの時、違う行動をとっていたら未来は変わっていたのだろうか。 いや、きっと変わっていなかっただろう。 同じように別れを選んでいただろう。 僕たちは未熟だった。
本大好きサラリーマンの小説⑪~赤い日記帳~
1998年 まだ、スマホもなかったし、ガラケーも普及していない頃 連絡手段は家電話のみ 栞はよく電話の線を抜いていた 喧嘩をしては線を抜く 連絡取れず、家までいく そして仲直り そんな日々も懐かしい 交換日記しようか 「面白そうだね。やろう」 赤い日記帳 僕が書いて、栞に渡す 栞が書いて、僕に渡す 大事なものを僕は失った
本大好きサラリーマンの小説10~裏切ってもなお~
坂くん、ごめんよ 栞のことは君が先に好きだったのに 相談もされていたのに 僕が付き合ってしまった だから僕を殴ってくれないか 「いいですよ。しょうがないです」 「聡志のこと私が先に好きになったのに。。。」 栞は栞で親友の美香を裏切った形になってしまった。 周りの人を裏切って 傷つけて でも 一緒にならないことは選べなかった S極とN極のように、引っ付かずにはいられなかった
本大好きサラリーマンの小説⑨~新しい生活~
大学2年生19歳の秋 僕たちは付き合うことになった あのときの空を忘れない あのときの花の匂いを忘れない 今でも、あのときの空を感じるときがある あのときの匂いがするときがある いつも栞を思い出す 付き合ってからの日々は楽しいかった 僕にとっては初めての彼女 すべてが新鮮だった お互いのマンションが近かったこともあり 僕たちは毎日会った 栞が作ってくれたかつ丼は絶品だった 僕の部屋で食べた納豆ご飯も絶品だった 二人で笑いながら食べた 何をするのも楽しかった そんな日がずっと続くと、本気で思っていた。
本大好きサラリーマンの小説⑧~始まり~
三日三晩 悩んだ 考えた 「私は誰とでもできるんだよ」 そう言った栞 固定電話の線抜いて 誰からも電話がかかってこないように 考えた 悩んだ 泣いた そんなことを言ってしまう栞がかわいそうだと思った 過去に何があった? 危なっかしい 壊れてしまいそうな 栞の心を守りたいと思った そばにいたいと思った 「俺たち、付き合おう」 そうやって僕たちの関係は始まった 恋とは違う 愛とも違う すぐに壊れてしまいそうだった そんな関係
本大好きサラリーマンの小説⑥~セックスのあとで~
「私は誰とでもできるんだよ」 終わった後、ベッドの中で栞はそう言った 僕にとっては初めての人で、セックスというものを初めて知った直後にそう言われた。 なんでそんなこと言うんだよ なんでそんな自分を傷つけるようなこと言うんだよ 「出ていってくれないか」 ショックと混乱で、そう言うのがやっとだった。 悲しい表情を浮かべて栞は出ていった。 あのとき 栞はどんな気持ちで その言葉を口にしたのだろう ただの遊びだったのだろうか。 初めて、自分の内面を話せる人ができたと思った その人と結ばれて幸せを感じていた直後 そう言われた。
本大好きサラリーマンの小説⑤~孤独を埋めるように~
「聡志の話し方好きよ」 栞はいつもそう言ってくれた それまで人と打ち解けたことのない僕の話を 栞はいつも真剣に黙って聞いてくれた 時々笑いながら あの笑顔が忘れられない なんでも話せた それまで話せなかった分 言葉が溢れた 恋でもない 愛でもない 魂が引き寄せられるような 求めていた答えが分かったような 欠けていたピース 孤独を埋めるように 栞は栞で闇を抱えているような 危なっかしさも持ち合わせていた いつか壊れてしまうんじゃないか 「私は誰とでもできるんだよ」 初めて結ばれた日 栞はそう言った