本大好きサラリーマンの小説⑭~重い想い~

僕は人と打ち解けるのが下手だった
人見知りではないのだが、時間が経てば仲良くなれるタイプでもなかった
合わない人とは、ずっと合わない

打ち解けられる人は片手で数えられるくらいだった
表向きは楽しそうに話していても、本心を見せることができなかった

いつも客観的に自分をみていた

「笑っていればいい」

処世術

あるとき気づいた

笑っていれば、うまくいく

そんな生活に疲れていた

そんな自分が嫌だった

そう思うことで、より深く自分の殻に閉じこもっていった

「栞ならわかってくれるはず」

その想いが栞には重かったのかもしれない

心が遠くなっていった

本大好きサラリーマンの小説⑬~胸騒ぎ~

「佐山 浩二です。これからよろしくお願いします」

コンビニでアルバイトをしていた僕に後輩ができた。

人付き合いは苦手な僕だったが、店長の「新人教育よろしくな」の一言で
僕が佐山の教育をすることになった。

歳も一つ下で、素直に言うことを聞いてくれたので、やりやすかった。
自分にも後輩ができた嬉しさもあり、一生懸命教えた。

浩二は物覚えもよく、気さくな奴で、僕らはすぐに打ち解けた。

「聡志さんて、彼女いるんですか?」

「いるよ」

「写真とか持ってないんですか?見せてくださいよ」

僕は躊躇いながらも、栞と旅行に行ったときの写真を見せてあげた。

麦わら帽子をかぶって、笑顔で振り返る栞の写真
お気に入りの写真だ

「めっちゃかわいくないですか?俺タイプっす」

「だろ?手出すなよ」

「出すわけないじゃないですか。やめてくださいよ」

妙な胸騒ぎがした。。。

本大好きサラリーマンの小説⑫~すれ違う気持ち~

聡志と栞は何度も抱き合った
それまでの孤独を埋めるように
聡志は何度も栞を求めた

「セックスってこんなに気持ちいいんだ」

いつの間にか、
聡志は快楽だけを求めるようになってしまった

口に含まれる行為も
栞の中も、なにもかも気持ちよかった

好きだからセックスをしているのか

セックスがしたいから好きなのか

聡志は分からなくなっていた

そんな聡志に

栞はしだいに愛想を尽かしていった

本大好きサラリーマンの小説⑪~未熟な二人~

栞は時々、なんの前触れもなく機嫌が悪くなった。

僕は、栞の感情の揺れに狼狽えることしかできなかった。

その頃の僕に、女心をわかる術もなくー今もだがー

ただ、見守るしかなかった。

今の言葉でいう「つんでれ」だったのか。。。

天邪鬼だったのか。。。

もう少し、僕が分かって上げられたら、あんな終わり方をしなかったのかもしれない。

僕は、不器用だった

それは今も変わらない

もしもあの時、違う行動をとっていたら未来は変わっていたのだろうか。

いや、きっと変わっていなかっただろう。

同じように別れを選んでいただろう。

僕たちは未熟だった。

本大好きサラリーマンの小説⑪~赤い日記帳~

1998年
まだ、スマホもなかったし、ガラケーも普及していない頃

連絡手段は家電話のみ

栞はよく電話の線を抜いていた

喧嘩をしては線を抜く


連絡取れず、家までいく

そして仲直り

そんな日々も懐かしい



交換日記しようか

「面白そうだね。やろう」

赤い日記帳

僕が書いて、栞に渡す

栞が書いて、僕に渡す


大事なものを僕は失った






本大好きサラリーマンの小説10~裏切ってもなお~

坂くん、ごめんよ
栞のことは君が先に好きだったのに
相談もされていたのに

僕が付き合ってしまった
だから僕を殴ってくれないか

「いいですよ。しょうがないです」



「聡志のこと私が先に好きになったのに。。。」
栞は栞で親友の美香を裏切った形になってしまった。

周りの人を裏切って
傷つけて

でも

一緒にならないことは選べなかった

S極とN極のように、引っ付かずにはいられなかった

本大好きサラリーマンの小説⑨~新しい生活~

大学2年生19歳の秋

僕たちは付き合うことになった

あのときの空を忘れない

あのときの花の匂いを忘れない

今でも、あのときの空を感じるときがある

あのときの匂いがするときがある

いつも栞を思い出す

付き合ってからの日々は楽しいかった

僕にとっては初めての彼女

すべてが新鮮だった

お互いのマンションが近かったこともあり

僕たちは毎日会った

栞が作ってくれたかつ丼は絶品だった

僕の部屋で食べた納豆ご飯も絶品だった

二人で笑いながら食べた

何をするのも楽しかった

そんな日がずっと続くと、本気で思っていた。




本大好きサラリーマンの小説⑧~始まり~

三日三晩

悩んだ

考えた

「私は誰とでもできるんだよ」
そう言った栞

固定電話の線抜いて
誰からも電話がかかってこないように

考えた

悩んだ

泣いた

そんなことを言ってしまう栞がかわいそうだと思った

過去に何があった?

危なっかしい

壊れてしまいそうな

栞の心を守りたいと思った

そばにいたいと思った



「俺たち、付き合おう」


そうやって僕たちの関係は始まった

恋とは違う

愛とも違う

すぐに壊れてしまいそうだった

そんな関係

本大好きサラリーマンの小説⑥~セックスのあとで~

「私は誰とでもできるんだよ」

終わった後、ベッドの中で栞はそう言った
僕にとっては初めての人で、セックスというものを初めて知った直後にそう言われた。


なんでそんなこと言うんだよ

なんでそんな自分を傷つけるようなこと言うんだよ

「出ていってくれないか」
ショックと混乱で、そう言うのがやっとだった。

悲しい表情を浮かべて栞は出ていった。

あのとき

栞はどんな気持ちで

その言葉を口にしたのだろう

ただの遊びだったのだろうか。

初めて、自分の内面を話せる人ができたと思った

その人と結ばれて幸せを感じていた直後

そう言われた。




本大好きサラリーマンの小説⑤~孤独を埋めるように~

「聡志の話し方好きよ」
栞はいつもそう言ってくれた

それまで人と打ち解けたことのない僕の話を
栞はいつも真剣に黙って聞いてくれた
時々笑いながら

あの笑顔が忘れられない

なんでも話せた
それまで話せなかった分
言葉が溢れた

恋でもない
愛でもない

魂が引き寄せられるような
求めていた答えが分かったような
欠けていたピース

孤独を埋めるように

栞は栞で闇を抱えているような
危なっかしさも持ち合わせていた
いつか壊れてしまうんじゃないか



「私は誰とでもできるんだよ」


初めて結ばれた日

栞はそう言った