本大好きサラリーマンの小説⑲~言葉は空に消え~

そこに浩二がいた。

僕がいた場所に浩二が座っていた。

カレーライスが二つ並べられていた

僕のためにではなく

浩二のために。



僕は栞をなじっただろうか。

浩二を殴っただろうか。

記憶が曖昧だ。

ただ

なじったにせよ、なぐったにせよ

栞の気持ちが離れたことだけは分かった

何を言っても、何をしても、もう戻らない

それだけは分かった。。


「栞に会いたいな」

空を見上げてつぶやいた

「栞と話したいな」

何度も思った

「栞だったら、なんて言うかな」

心の中の栞と会話した

言葉は空に消え

想いは燻ぶった

「同じ空見てんのかな」

栞の無事を祈った

本大好きサラリーマンの小説⑱

なんでこんなに不器用なんだろう

怒りを爆発させたあと、いつも後悔する

栞にも嫌な思いをさせていたんだろうな

僕たちは終わるべくして終わったんだ

浩二に取られたわけじゃない

栞の心が僕から離れてしまったんだ

僕の心もいつしか濁ってしまったんだ

別れる直前の頃を実はあまり覚えていない

何が引き金だったんだろう

それとも

終わっていなかったのか

僕が勝手に終わらせたのか

天秤にかけられていたのか

あの日の涙は何を語っていたのだろう




本大好きサラリーマンの小説⑰~心も身体も~

優子が家に遊びに来た

高校3年生のとき付き合っていた子

手も握らないような清純な付き合い

卒業前に自然消滅した

大学で東京に出てきていたことは知っていたから

どちらからともなく、連絡をとり合うようになり

栞に悪いと思いながら、家で会うことになった

懐かしい話に花が咲き、盛り上がったあと、

そんな雰囲気になった

「栞も他の男とヤッてるんだ。俺だっていいだろう」

唇を合わせる

僕の手が優子の大きめの乳房を揉みしだく

優子の手が僕の股間をまさぐる

そして、僕のそれを口に含む

でも、駄目だった

僕の男根は全く反応しなかった

心も身体も栞を裏切ることは二十歳の僕にはできなかった

「何やってるんだろう俺は。。」

優子が帰った後、独り言ちた。


当時、寝っ転がって天井を眺めていた

何かの本で読んだのか

癖になっていた

寝っ転がって、大の字になって、天井を眺める

そんなとき

いつも「なにやってるんだろう、俺は。。」

とつぶやいた

不器用だな

もっと人生楽しめよ

みんなやってるよ?

僕にはできなかった




本大好きサラリーマンの小説⑯~懐かしい曲たち~

ドリカム「LOVE LOVE LOVE」

安室奈美恵「DREAMING I WAS DREAMING」

栞がカラオケで歌ってくれた


globe 「love again」

あの頃を彩る

今聴いても思い出す

なぜ、時は戻せないのだろうか

思い出があるから

人は生きていける

時は戻せても

気持ちは戻らない

でも

確かにあの時、栞はそこにいた

聡志もそこにいた

あの時の二人だからこそ惹かれ合えた

お互いないものを埋めるように

本大好きサラリーマンの小説⑮~就職~

大学2年から3年になり、将来のことを考え始めた頃

将来やりたいことが分かっている栞と

何をしたいのか分からない聡志の間に

少しづつ溝が出来ていった

「私は学校の先生になるんだ」

出会ったころからぶれない目標をもっていた栞

何をしたいか分からず、時間を持て余していた聡志との間に

埋めることのできない温度差が生まれていった

「ただ会いたい」

幼い聡志の気持ちを栞はどう思っていたのだろうか。。。

「聡志も将来のこと考えなよ」

そんな言葉から逃げていた

そんな聡志に栞は愛想を尽かした。。

本大好きサラリーマンの小説⑭~重い想い~

僕は人と打ち解けるのが下手だった
人見知りではないのだが、時間が経てば仲良くなれるタイプでもなかった
合わない人とは、ずっと合わない

打ち解けられる人は片手で数えられるくらいだった
表向きは楽しそうに話していても、本心を見せることができなかった

いつも客観的に自分をみていた

「笑っていればいい」

処世術

あるとき気づいた

笑っていれば、うまくいく

そんな生活に疲れていた

そんな自分が嫌だった

そう思うことで、より深く自分の殻に閉じこもっていった

「栞ならわかってくれるはず」

その想いが栞には重かったのかもしれない

心が遠くなっていった

本大好きサラリーマンの小説⑬~胸騒ぎ~

「佐山 浩二です。これからよろしくお願いします」

コンビニでアルバイトをしていた僕に後輩ができた。

人付き合いは苦手な僕だったが、店長の「新人教育よろしくな」の一言で
僕が佐山の教育をすることになった。

歳も一つ下で、素直に言うことを聞いてくれたので、やりやすかった。
自分にも後輩ができた嬉しさもあり、一生懸命教えた。

浩二は物覚えもよく、気さくな奴で、僕らはすぐに打ち解けた。

「聡志さんて、彼女いるんですか?」

「いるよ」

「写真とか持ってないんですか?見せてくださいよ」

僕は躊躇いながらも、栞と旅行に行ったときの写真を見せてあげた。

麦わら帽子をかぶって、笑顔で振り返る栞の写真
お気に入りの写真だ

「めっちゃかわいくないですか?俺タイプっす」

「だろ?手出すなよ」

「出すわけないじゃないですか。やめてくださいよ」

妙な胸騒ぎがした。。。

本大好きサラリーマンの小説⑫~すれ違う気持ち~

聡志と栞は何度も抱き合った
それまでの孤独を埋めるように
聡志は何度も栞を求めた

「セックスってこんなに気持ちいいんだ」

いつの間にか、
聡志は快楽だけを求めるようになってしまった

口に含まれる行為も
栞の中も、なにもかも気持ちよかった

好きだからセックスをしているのか

セックスがしたいから好きなのか

聡志は分からなくなっていた

そんな聡志に

栞はしだいに愛想を尽かしていった

本大好きサラリーマンの小説⑪~未熟な二人~

栞は時々、なんの前触れもなく機嫌が悪くなった。

僕は、栞の感情の揺れに狼狽えることしかできなかった。

その頃の僕に、女心をわかる術もなくー今もだがー

ただ、見守るしかなかった。

今の言葉でいう「つんでれ」だったのか。。。

天邪鬼だったのか。。。

もう少し、僕が分かって上げられたら、あんな終わり方をしなかったのかもしれない。

僕は、不器用だった

それは今も変わらない

もしもあの時、違う行動をとっていたら未来は変わっていたのだろうか。

いや、きっと変わっていなかっただろう。

同じように別れを選んでいただろう。

僕たちは未熟だった。

本大好きサラリーマンの小説⑪~赤い日記帳~

1998年
まだ、スマホもなかったし、ガラケーも普及していない頃

連絡手段は家電話のみ

栞はよく電話の線を抜いていた

喧嘩をしては線を抜く


連絡取れず、家までいく

そして仲直り

そんな日々も懐かしい



交換日記しようか

「面白そうだね。やろう」

赤い日記帳

僕が書いて、栞に渡す

栞が書いて、僕に渡す


大事なものを僕は失った